群像2014年3月号

女の性と老いを描く感動作

小池昌代「たまもの」

一歳にもならないとき、山尾は実の父親に連れられて、わたしのところに来た。妻はこの子を産んだ直後に死んだんだ、と彼――わたしの元恋人――は言った。働いて、必ず、迎えに来るから。それきり、連絡はなかった。

十一歳になった、血のつながらない息子。彼との二人暮らしは、穏やかな喜びに包まれている――。小池昌代が静かに柔らかに描く、息子への愛と、男たちへの愛。感動長篇「たまもの」、一挙掲載です。


名手が描く“出逢い”の物語

片岡義男「3つの短篇」

いつも行くカフェのウェイトレスと結婚することになった吉野。彼女は頭の形がよく、肘の裏に雰囲気があり、横顔が上品な「理想のウェイトレス」なのだ(「例外のほうが好き」)。

俳優の菅野は妹に頼まれ、彼女のベンツを東京から大分まで陸送することに。その途中、偶然の重なり合いから、ある女性に再会して――(「お隣のかたからです」)。

初めて入った喫茶店で、雇われマスターにスカウトされた柴田。「女もひとりつけるから」と紹介されたナオミと、元ロマン・ポルノ女優がやっている谷中の小料理屋へ向かうことに……(「ミッキーは谷中で六時三十分」)。

片岡義男による、三つの軽やかな“出逢い”の物語をお楽しみください。


対談 大澤真幸×大澤信亮

「キリスト教と資本主義」

『<世界史>の哲学 東洋篇』を1月末に刊行した大澤真幸。<古代篇><中世篇>で論じられた「キリストの死」というミステリー、そして<東洋篇>で取り上げられた「宗教としての資本主義」について、気鋭の評論家・大澤信亮が切り込みます。「キリスト教と資本主義――『<世界史>の哲学』考」『<世界史>の哲学 古代篇』『中世篇』『東洋篇』とともにお楽しみください。


デビュー小説論第二回

清水良典による村上龍論

清水良典による「デビュー小説論」、第二回は、群像新人文学賞受賞作であり芥川賞受賞作でもある、村上龍『限りなく透明に近いブルー』を取り上げます。《ロックとファックの時代》を鮮烈に描いた本作に見る「戦争」とは? 「音楽の終わりと『永久戦争』――村上龍『限りなく透明に近いブルー』」必読です。


連作小説第二回

古井由吉「死者の眠りに」

「私」は、義母を見舞いに福島の病院まで日帰りで出かける。義母は呼びかけに答えないが、容体は安定しているように見える。ところが帰宅すると訃報が飛び込んできて――。古井由吉の連作小説、第二回は「死者の眠りに」です。


もくじ

〈創作〉

たまもの  小池昌代

〈短編集〉

3つの短篇  片岡義男

例外のほうが好き/お隣のかたからです/ミッキーは谷中で六時三十分

〈連作〉〔2〕

死者の眠りに  古井由吉

〈対談〉

キリスト教と資本主義――『<世界史>の哲学』考  大澤真幸×大澤信亮

〈連作評論〉〔2〕

音楽の終わりと「永久戦争」――村上龍『限りなく透明に近いブルー』  清水良典

〈連載小説〉

ビビビ・ビ・バップ〔3〕  奥泉 光

時穴みみか〔6〕  藤野千夜

死に支度〔8〕  瀬戸内寂聴

パノララ〔12〕  柴崎友香

地上生活者 第五部 邂逅と思索〔25〕  李 恢成

〈連載評論〉

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔3〕  片山杜秀

皇后考〔18〕  原 武史

〈世界史〉の哲学〔59〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔48〕  穂村 弘

映画時評〔63〕  蓮實重彦

〈随筆〉

胴突唄の声と体          細馬宏通

小樽美しすぎ           雪舟えま

カリフォルニアの青い「LIFE」 川崎大助

遠い関東平野           北野道夫

〈私のベスト3〉

ボクの珍記録         水道橋博士

カフカと安全性の装置     市野川容孝

T・スコットとD・ワシントン 三宅 唱

〈書評〉

空想と人生(『LIFE』松波太郎)野崎 歓

絢爛たる語りの業(わざ)(『爛』瀬戸内寂聴)尾崎真理子

真実の幻想(『香夜』髙樹のぶ子)藤沢 周

我々は手分けしてこの本を読まなければならない(『問いのない答え』長嶋 有)福永 信

戦後の時間を綴じる物語の糸(『めぐり糸』青山七恵)清水良典

紅の物差し、白の物差し(『純粋異性批判』中島義道)酒井順子

〈創作合評〉

稲葉真弓+苅部 直+藤野可織

「形見」川上弘美(群像2014年2月号)

「韋駄天どこまでも」多和田葉子(群像2014年2月号)

「ニューヨーク、ニューヨーク」津島佑子(群像2014年2月号)

「地獄」津村記久子(文學界2014年2月号)

「匿名」藤谷 治(文藝2014年春号)

「透明な迷宮」平野啓一郎(新潮2014年2月号)