群像2014年5月号

第8回大江健三郎賞 受賞作発表!

第8回大江健三郎賞が決定いたしました。2013年に刊行された「文学の言葉」を用いた作品の中から選ばれた受賞作は、英語、フランス語、ドイツ語のいずれかに翻訳されます。大江健三郎による選評「新しい作家が規範を作る――八年間の賞選考から」では、受賞作の瑞々しさが取り上げられています。


村田沙耶香「殺人出産」

笙野頼子「未闘病記」

「10人産んだら、一人殺せる」。人口減少に歯止めが掛からなくなったいつかの日本。10人子供を産んだら、一人殺してもいい。そんな「殺人出産システム」が導入されて……。「殺人出産」村田沙耶香にしか書けない衝撃作です。

膠原病であることが発覚した著者だったが、医師の助けと自分の努力で、「できること」は増えていく。信号のボタンが押せる。庭の手入れができる。音楽と綺麗な入浴剤を持ち込んで、お風呂はゆっくりと。私は「しな、ない」し、「なんでも/できる」のだ――。爽やかな感動に彩られた笙野頼子「未闘病記――膠原病、『混合性結合組織病の』」、完結です。


創作 川上弘美、古井由吉、川崎 徹

「私」は十人で生まれたが、七人は育ちきらずに「終わった」らしい。残った「私」たちは、大きな母に育てられ――。少しふしぎな世界を描いた川上弘美「水仙」。連作開始です。

古井由吉の連作、三回目のタイトルは「踏切り」。叔父はかつて、踏切りに飛び込もうとした男を止めたことがあるらしい。それはなんとも妙な経験で……。

CMプランナーの「わたし」は、海外で観光用馬車の馬が死ぬところを目撃する。そういえば子供の頃、同じように馬が倒れるのを見たことがあった。確か、学年で一番野球ができるムラカミが一緒だったはずだ――。川崎徹『ムラカミのホームラン』、懐かしいCMも登場するあたたかな物語です。


新連載評論 沼野充義「チェーホフとロシアの世紀末」

チェーホフの作品に登場する子供たちの多くは不幸である。少年「ワーニカ」は見習い奉公先でひどい扱いを受け、短篇「ねむい」のワーリカは子守りと家事で睡眠不足になり赤ん坊を絞め殺す。チェーホフ自身が、辛い子供時代を過ごしていたことに由来するのだろうか。沼野充義による待望のロシア文学論「チェーホフとロシアの世紀末」、スタートです!


『寂しい丘で狩りをする』刊行記念対談

辻原 登×滝田洋二郎

強姦犯人が出所後、被害者を逆恨みし惨殺したという「日本たばこ産業OL殺人事件」。犯人は異常だが、もしかすると、男はみな何らかの暴力性を抱えているのかもしれない――。そのような思いから、この事件をモデルに『寂しい丘で狩りをする』を書いたという辻原登。映画へのオマージュも込められた本作をめぐって、『壬生義士伝』『おくりびと』で知られる映画監督・滝田洋二郎と対談しました。


もくじ

〈中篇〉

殺人出産  村田沙耶香

〈連作短篇〉

水仙  川上弘美

〈新連載〉

チェーホフとロシアの世紀末  沼野充義

〈第7回大江健三郎賞発表〉

新しい作家が規範を作る――八年間の賞選考から  大江健三郎

〈創作〉

未闘病記――膠原病、「混合性結合組織病」の(後篇)  笙野頼子

ムラカミのホームラン  川崎 徹

〈連作〉〔3〕

踏切り  古井由吉

〈対談〉

小説と映画と人生――『寂しい丘で狩りをする』をめぐって  辻原 登×滝田洋二郎

〈追悼〉大西巨人

〈死〉と〈未生〉  保坂和志

大西さんの眼  坪内祐三

消滅の巨人  池田雄一

〈連載小説〉

ビビビ・ビ・バップ〔5〕  奥泉 光

時穴みみか〔8〕  藤野千夜

死に支度〔10〕  瀬戸内寂聴

パノララ〔14〕  柴崎友香

地上生活者 第五部 邂逅と思索〔27〕  李 恢成

〈連載評論〉

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔5〕  片山杜秀

皇后考〔20〕  原 武史

〈世界史〉の哲学〔61〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔50〕  穂村 弘

映画時評〔65〕  蓮實重彦

〈随筆〉

犬の死について  前田英樹

人間の営みとしての科学と芸術  岡ノ谷一夫

あの日の歌  東 直子

痛みについて  萱野稔人

〈私のベスト3〉

「襞の街」京都  福嶋亮大

くねくね髪系男子  川口晴美

なぜ読めないか  ナマエミョウジ

〈書評〉

ゆがんだ男たちの生々しさ(『寂しい丘で狩りをする』辻原 登)池上冬樹

てんてんが素晴らしすぎる点について(『御命授天纏佐左目谷行』日和聡子)海猫沢めろん

テクニシャンなデストロイヤー(『金を払うから素手で殴らせてくれないか?』木下古栗)豊﨑由美

駄目な男、成長する女、そして猫(『猫の目犬の鼻』丹下健太)瀧井朝世

流民たちの系譜(『渡良瀬』佐伯一麦)紅野謙介

〈創作合評〉

堀江敏幸+諏訪哲史+平野啓一郎

「カエルの聖母」四元康祐(文學界2014年4月号)

「湖のドライブ」北野道夫(文學界2014年4月号)

「悪夢じゃなかった?」山内マリコ(群像2014年4月号)