群像2014年11月号

キリストの神を描く新連作短篇

島本理生「夜のまっただなか」

「日本という国自体にキリスト教が必要だったときは、おそらくありません」、金井先生はそう言い切った――。大学の名前だけで神学科を選んだ琴子は、周囲の勧めでミスキャンパスに出場するものの、結果は八人中八位。恥ずかしさで逃げ帰る途中、タレント事務所につとめるという男性に声を掛けられ……。頼るもののないこの国で、不安をかかえ生きる少女たちと、それを利用する男たち。新連作短篇第一回「夜のまっただなか」島本理生が新境地に挑みます。


詩の本質をえぐる意欲作

四元康祐「偽詩人抄伝」

誰より詩を愛しているにもかかわらず、徹底的に“書く”才能がなかった吉本昭洋。大学時代に身に着けた語学力の助けもあり商社勤めとなった彼は、海外赴任先で華やかなる「詩祭」に出会う。そこで見つけたのは、日本では知られていない瑞々しい詩の数々だった――。「偽詩人抄伝」、詩人としても名高い四元康祐が、詩の本質を、ひとりの男の人生とともに描く意欲作です。


鼎談「批評とは何か」

鷲田清一×大澤真幸×熊野純彦

「群像新人文学賞」から分離し、新たに創設された「群像新人評論賞」。その選考委員となった鷲田清一大澤真幸熊野純彦が、批評とは何か、新人賞応募作に期待することは何かを語ります。論文と批評の違い、特異性と普遍性、そして吉本隆明・柄谷行人が与えたインパクトとは。


黒井千次「からの椅子」

古井由吉「雨の裾」

黒井千次の連作、第四回は「からの椅子」。父親を病院に送り届けた息子は、父の定位置であった安楽椅子にふと腰掛けてみる。そして導かれるように、天袋から見つけ出した父親の手記に向かうのだった――。

母親が癌で入院していたとき、私は毎日のように病院に通った。誰より熱心に母を看病してくれたのは、ろくな世話も出来ない男の私ではなく、私の「女」だった。古井由吉の連作「雨の裾」、必読です。


滝口悠生「泥棒」

山内マリコ「かわいい結婚」

私たち夫婦のご近所さんであるアマチュア女性落語家・伊澤さん。姿をめっきり見なくなったと思っていたら、入れ替わるように、スケボーを走らせる若い男がうろつき出して……。滝口悠生「泥棒」、短篇「かまち」の続編です。

下着屋の店長としてバリバリ働いていたひかりは、義両親からの希望もあって、結婚をきっかけに家庭に入ることに。そこで初めて判明した驚愕の真実――家事って全然楽しくない! 「かわいい結婚」、新鋭・山内マリコが専業主婦の苦悩を生き生きと描きます。


もくじ

〈新連作短篇〉

夜のまっただなか  島本理生

〈中篇〉

偽詩人抄伝  四元康祐

〈鼎談〉

批評とは何か  鷲田清一×大澤真幸×熊野純彦

〈連作評論〉〔2〕

『ガリヴァー旅行記』と名前の消滅  武田将明

〈創作〉

からの椅子  黒井千次

雨の裾  古井由吉

泥棒  滝口悠生

かわいい結婚  山内マリコ

〈追悼 稲葉真弓〉

お別れの挨拶――稲葉真弓さんへ――  黒井千次

半島の貴婦人  筒井康隆

また会おうね  小池真理子

猫の戦友  笙野頼子

凛と伸びた背中  清水良典

〈連載小説〉

尻尾と心臓〔5〕  伊井直行

虚人の星〔5〕  島田雅彦

ビビビ・ビ・バップ〔11〕  奥泉 光

〈連載評論〉

チェーホフとロシアの世紀末〔7〕  沼野充義

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔11〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔67〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔56〕  穂村 弘

映画時評〔71〕  蓮實重彦

〈随筆〉

貸金庫と老人性しみ  林 京子

テレビ界というタコツボ  佐々木健一

愛でもなく、性欲でもなく  田中兆子

トレブリンカの入れ歯  大江麻衣

〈私のベスト3〉

我が心の3怪豪  門馬忠雄

あの頃のようには、もう読めない  郷原佳以

我が愛しのフグたち  桝 太一

〈書評〉

編者と書き手の幸福な呼応(『変愛小説集 日本作家編』岸本佐知子編)瀧井朝世

ファンタジーと寓話(『ファンタズマゴーリア』岡崎祥久)佐々木 敦

近代は小説によって作られた(『東大で文学を学ぶ ドストエフスキーから谷崎潤一郎へ』辻原 登)阿部公彦

到来する落差=実存(『小林秀雄とその戦争の時 『ドストエフスキイの文学』の空白』山城むつみ)浜崎洋介

〈創作合評〉

松浦寿輝+蜂飼 耳+宮下 遼

「宰相A」田中慎弥(新潮2014年10月号)

「Identity Provider」岡本 学(群像2014年10月号)

「鯨や東京や三千の修羅や」古川日出男(すばる2014年10月号)