群像2015年12月号

夫婦生活の繊細さを丹念に描く

諏訪哲史「ある平衡」

結婚して二年の若い夫婦が互いを気遣うあまりおこしてしまう、いくつもの小さなすれ違い。それは少しずつ二人の均衡をすり減らしていき――。「ある平衡」諏訪哲史が薄氷を踏むような夫婦の日々を丹念に描きます。


短篇 山田詠美「骨まで愛して・・みた」

これが最後の恋と愛し尽くした女を病気で早くに亡くした茂生。これ以上愛する女性はもう現れない……と思いきや、あっという間に次の運命の相手と出会ってしまう。しまった、こっそり持ち続けていた元カノの遺骨をなんとか処分しなくては! 女の愛はどこまで欲深いのか。爆笑必至の短篇、山田詠美「骨まで愛して・・みた」


短篇 乙川優三郎「ジョジョは二十九歳」

ダンサーのジョジョは一家の大黒柱。フィリピン国内だけでなく、年に数回日本でも興行を行って、家族を食べさせる毎日。目標の貯金額まであと一歩というところで、その“悪魔”はやってきた――。乙川優三郎「ジョジョは二十九歳」、切なくも美しい短篇です。


連作評論(4) 武田将明「『トリストラム・シャンディ』と留保される名前」

武田将明の連作評論「小説の機能」、第四回ではローレンス・スターンがものした未完の大作『トリストラム・シャンディ』を取り上げます。さまざまな仕掛けの施された“奇書”である本作。その著者は負けず劣らずの変わり者で――!? 「ロビンソン・クルーソー」「ガリヴァー旅行記」「パメラ」とは異なる不可思議な主人公と作者の在り方とは?


対談 古井由吉×又吉直樹

対談 島田雅彦×白井 聡

『雨の裾』の刊行を記念し行われた、古井由吉又吉直樹のト-クイベントを掲載。二人が小説を書くときに感じる「自分の中にいる過去の自分たち」とは? 又吉直樹が思わず口にした「古井さん、芸人しかわからないようなことがわかるんですね」という言葉の真意は? 対談「小説も舞台も、破綻があるから面白い」、必読です。

島田雅彦白井聡が新刊『虚人の星』をきっかけに、この国の現在と未来を語り合う対談、「国家の自殺をくいとめられるか」。「プロレス政治」ゆえに見られた自立性はどこに消えたのか? 安倍政権に漂う人格解離性とは? 


もくじ

〈短篇〉

ある平衡  諏訪哲史

骨まで愛して・・みた  山田詠美

ジョジョは二十九歳  乙川優三郎

〈対談〉

小説も舞台も、破綻があるから面白い  古井由吉×又吉直樹

国家の自殺をくい止められるか  島田雅彦×白井 聡

〈連作〉

なぜなの、あたしのかみさま  川上弘美

静寂(完結)  島本理生

〈連作評論〉〔4〕

『トリストラム・シャンディ』と留保される名前  武田将明

〈連載小説〉

ビビビ・ビ・バップ 最終回  奥泉 光

尻尾と心臓 最終回  伊井直行

オライオン飛行〔10〕  髙樹のぶ子

〈連作評論〉

美と倫理とのはざまで カントの世界像をめぐって〔2〕 熊野純彦

新・私小説論〔3〕  佐々木 敦

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔22〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔77〕  大澤真幸

〈連載〉

モンテーニュの書斎〔3〕  保苅瑞穂

現代短歌ノート〔68〕  穂村 弘

〈随筆〉

監視社会を生きる  斎藤貴男

ドイツで劇場の未来形を夢想した  高山 明

女傑とキューピー  栩木玲子

デモは卑怯だ――みずからのスマートさを放棄しよう  栗原 康

〈私のベスト3〉

三島由紀夫ゆかりの花  三輪太郎

『変なおじさん』のガラスはなぜ割れる?  せきしろ

好きな鉱物  宮原ひろ子

〈書評〉

冬空を思わせる芸術家小説(『家へ』石田 千)管 啓次郎

クローゼットの向こうには(『ウォーク・イン・クローゼット』綿矢りさ)小林エリカ

『インランド・エンパイア』をこえて(『遠い触覚』保坂和志)佐藤康智

万物に隠された詩情(『空にみずうみ』佐伯一麦)若松英輔

自分を超える自伝の試み(『何が? 永遠が』マルグリット・ユルスナール著、堀江敏幸訳)中条省平

個人の個人による個人のための(『職業としての小説家』村上春樹)乗代雄介

〈創作合評〉

春日武彦+清水良典+沼野充義

「異類婚姻譚」本谷有希子(群像2015年11月号)

「手のひらの海」朝比奈あすか(文學界2015年11月号)

「前世は兎」吉村萬壱(すばる2015年11月号)