群像2016年2月号

会社を辞めた男の“冒険”とは 新連載 磯﨑憲一郎「鳥獣戯画」

二十八年間の会社員生活を終えた小説家である「私」は、女友達と待ち合わせていた。喫茶店に到着するも彼女の姿はまだなく、コーヒーを飲んでいると長身の美人が現れて――。晴れて自由の身になったのだから、冒険をしないでどうする! 新連載、磯﨑憲一郎「鳥獣戯画」。平凡な男が人生の危険な隘路に踏み込む。


新連載 羽田圭介「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」

本を読む人間より、書きたい人間の方が多いなんておかしいだろう――!? 華やかだった頃の思い出にすがりながら生きる出版業界を風刺する、羽田圭介の超問題作がスタート! 新連載「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」、日本にゾンビが出現した。


短篇 津島佑子「オートバイ、あるいは夢の手触り」

フランスの植民地で、初めてオートバイに乗ったひとりの女性。そのエピソ-ドを聞いた大学教員の景子は、かつて自分が経験した不倫の恋を思い出す――。大きな力に立ち向かう女性をいきいきと描く津島佑子の短篇「オートバイ、あるいは夢の手触り」、必読です。


短篇 黒井千次、山田詠美

受賞後第一作 片瀬チヲル

黒井千次の連作短篇、第7回は「坂の下」。思想検事だった父の懺悔のような告白文につられ、発禁本の展示に向かった息子。そこで同じく検事を父親に持つ女性と出会って……。

工場長の娘である美津子は、ワガママな箱入り娘。あの時彼女の怒りを買った私は、大きな箱に閉じ込められて――。山田詠美「箱入り娘」、少女が感じる孤独の正体は?

受験も就活もなんとかこなしてきたあたしは、表向きは普通のOL。でも家では、大好きな二次元の世界にどっぷり。じゅうぶん幸せなのに、なんだか感じるプレッシャー。ねえ、こんなあたしでも結婚できる? 『泡をたたき割る人魚は』でデビューした片瀬チヲルによる「草の婚約」、軽やかな中篇です。


対談 本谷有希子×村田沙耶香

「結婚の不思議、夫婦の不気味」

少しずつ顔が似ていく夫婦の不気味さを描いた『異類婚姻譚』を刊行予定の本谷有希子と、家族もセックスもなくなる未来を想像した『消滅世界』を発表した村田沙耶香。十年をこえるキャリアを経て、同い年の二人が見る景色とは? 「結婚の不思議、夫婦の不気味」、既存の価値観が揺らぐ衝撃の対談です!


もくじ

〈新連載〉

鳥獣戯画  磯﨑憲一郎

コンテクスト・オブ・ザ・デッド  羽田圭介

〈短篇〉

オートバイ、あるいは夢の手触り  津島佑子

〈連作・短篇〉

坂の下  黒井千次

箱入り娘  山田詠美

〈中篇140枚〉

草の婚約  片瀬チヲル

〈対談〉

「結婚の不思議、夫婦の不気味」  本谷有希子×村田沙耶香

〈連載小説〉

オライオン飛行〔12〕  髙樹のぶ子

〈連作評論〉

新・私小説論〔4〕  佐々木 敦

美と倫理とのはざまで カントの世界像をめぐって〔4〕 熊野純彦

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔24〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔79〕  大澤真幸

〈連載〉

モンテーニュの書斎〔5〕  保苅瑞穂

現代短歌ノート〔70〕  穂村 弘

〈随筆〉

遅咲きの翻訳者として  宮下志朗

ガイコツの思い出  橋場 弦

異界の花と彩り 冬に桜を想う  佐藤俊樹

近藤紘一、没後30年の日に  綿井健陽

〈私のベスト3〉

私的三大不思議  郡司ペギオ-幸夫

あなたが知らない世界の大都市  梅田カズヒコ

私の三大殻付きナッツ  山下紘加

〈書評〉

GODの肖像(『モナドの領域』筒井康隆)茂木健一郎

声の汽水(『砂浜に坐り込んだ船』池澤夏樹)石田 千

謎の仕事、仕事の謎(『この世にたやすい仕事はない』津村記久子)牧田真有子

「起動」の前に「終了」があった(『プロローグ』円城 塔)佐々木 敦

〈創作合評〉

阿部公彦+安藤礼二+江南亜美子

「手のひらの京」綿矢りさ(新潮2016年1月号)

「ままならないから私とあなた」朝井リョウ(文學界2016年1月号)

「絵姿女房への挨拶」牧田真有子(群像2016年1月号)