群像2017年8月号

新連作

古井由吉「たなごころ」

春の寒気に雑念は斜に跳ぶ。未ダ生ヲ知ラズ、焉ンゾ死ヲ知ラン。そこには「死んで在る」ということの、不可思議さが含まれているのではないか──。待望の古井由吉の新連作がスタート! 第1回は「たなごころ」


短篇

西村賢太「青痰麵」

飯を食っている最中に何か不快な事態が出来すると、その途端に箸を止め、そのまま立ち上がるか、皿の上のものを破壊する挙に出てしまう。これが北町貫多の持って生まれた情けない癖。そう、「あの店」でもそうだった──。貫多と店主の二十数年にも及ぶ蟠りは、ある深夜、不穏な最高潮を迎えることに……。西村賢太の短篇「青痰麵」


中篇150枚

水原 涼「クイーンズ・ロード・フィールド」

カルドニアンFCのユースチームにいたロベルト、足の不自由な妹・ジャスミンを抱えたモリー、バンド仲間のアシュリーと、そしてぼく・クレイグ。十三歳で出会ってから二十六年間、ぼくたち四人はいつも一緒だった。そして三十九歳になったぼくらは、再びクイーンズ・ロード・フィールドへ向かった──。大人になってしまった四人の、美しく、そして苦い青春の残像。水原涼の中篇150枚「クイーンズ・ロード・フィールド」


新連載評論

中条省平「人間とは何か──フランス文学による感情教育──」

すべてはフランス文学が教えてくれた──。一個人の文学遍歴に関する極私的メモワールから、偏愛的かつ連続的作家論へ。フランス文学史の素描を重ねつつ、近代の人間精神の多様な運動の軌跡を描く新たな試み! 第1回は、中条少年の心をわしづかみにしてしまったマルキ・ド・サドの「悪」について。中条省平の新連載評論「人間とは何か──フランス文学による感情教育──」


新連続対談

いとうせいこう「今夜、笑いの数を数えましょう」

いとうせいこうの新連載対談シリーズ「今夜、笑いの数を数えましょう」。笑いとは何か? をテーマに、毎回各界で活躍するゲストを招き、トークバトルを繰り広げる。第1回のゲストは放送作家の倉本美津留。お互いの笑いの体験遍歴を軸に、新たな「笑いの定義」の策定に挑む!


もくじ

〈新連作〉

たなごころ         古井由吉

〈短篇〉

青痰麵           西村賢太

〈中篇150枚〉

クイーンズ・ロード・フィールド

       水原 涼  

〈新連載評論〉

人間とは何か──フランス文学による感情教育──

              中条省平

〈新連続対談〉

今夜、笑いの数を数えましょう

     いとうせいこう  第1回 倉本美津留

〈連作〉

地上生活者 第六部 最後の試み〔6〕

              李 恢成

〈リレーエッセイ 私と大江健三郎〉

新しい人よ眼ざめよ!    安藤礼二

〈連載小説〉

鳥獣戯画〔最終回〕   磯﨑憲一郎

二月のつぎに七月が〔4〕  堀江敏幸

地球にちりばめられて〔9〕  多和田葉子

九十九歳になった私〔11〕  橋本 治

山海記〔12〕  佐伯一麦

〈連載評論〉

言語の政治学〔最終回〕  三浦雅士

たましいを旅するひと──河合隼雄〔7〕 若松英輔

〈世界史〉の哲学〔94〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔87〕  穂村 弘

〈随筆〉

死から見えてくる人生  小川隆夫

しょうが焼きの値段  岡田麿里

期待値のフラッピーバード  加藤秀行

恋地蔵  関取 花

〈私のベスト3

たそがれ、郷愁、昭和飲み  満薗文博

停滞の理由、ベスト3。  杉作J太郎

ザ・ノンフィクションの闇  鮫肌文殊

〈書評〉

カジュアルな死

 (『もう生まれたくない』長嶋 有)山城むつみ

愉悦に満ちたモンテーニュ賛歌

 (『モンテーニュの書斎 「エセー」を読む』保苅瑞穂)野崎歓

「反芻」する「幸福」

 (『カストロの尻』金井美恵子)野田康文

変わっていくことと家族

 (『星の子』今村夏子)藤野可織

〈創作合評〉

島田雅彦+阿部公彦+倉本さおり

「毛婚」栗田有起(群像2017年7月号)

「ナイス・エイジ」鴻池留衣(新潮2017年7月号)

「未熟な同感者」乗代雄介(群像2017年7月号)