第56回群像新人文学賞には2004(小説1851・評論153)篇の応募があり、

青山七恵、阿部和重、安藤礼二、奥泉光、辻原登の5氏による

選考の結果、下記のように決定いたしました。

受賞作と受賞の言葉、選評は群像2013年6月号をお読み下さい。

【小説部門 当選作】
「鶏が鳴く」
波多野 陸はたのりく

1990年千葉県生まれ。

千葉県在住。

波多野 陸   受賞のことば

Q:小説を書き始めたのはいつ、どのようなきっかけでですか?

A:小説は去年の1月ぐらいから書き始めました。色々と本を読んできて自分の中に蓄積された知識等を小説という形でまとめられるのではと思いました。

Q:群像新人文学賞に応募しようと思ったきっかけは何ですか?

A:本当のことをいうと、応募にこの賞が時期的にぴったりだったという理由ですが、当然名だたる作家達が輩出している賞であることは知っていたので、そのことも関係しているはずです。

Q:受賞作を書いたきっかけ、この題材を選んだ理由を教えてください。

A:宗教や信仰というトピックに首を突っ込んでいますが、それはたぶん、私がそういうものと接点がないから逆に興味があったということでしょう。

Q:どういう時間に執筆していますか? どんなときにアイディアが浮かびますか?

A:書く気になれたら書きます。煙草を吸っている時にアイディアが浮かぶことも多いですが、一番はまさに小説を書いている時です。

Q:好きな本(小説、評論)、好きな書き手(作家、評論家)を教えてください。

A:J・D・サリンジャー、ジョン・スタインベック、高村薫、村上龍。

Q:これから群像新人文学賞に応募する人へメッセージをお願いいたします。

A:自分がある程度読めるぐらいの外国語の本に挑戦してみるといいかもしれません。私はそれで言葉に意識的になったような気がします。


【評論部門 優秀作】
「不可能性としての〈批評〉――批評家 中村光夫の位置」
木村友彦きむらともひこ

1967年東京都生まれ。

東京都在住。

木村友彦   受賞のことば

Q:評論を書き始めたのはいつ、どのようなきっかけでですか?

A:20代の後半から、日本近代文学に関する研究論文(のようなもの?)を書き始めました。私の中で研究論文と文芸評論を明確に区別できていないのですが、学会の動向を意識した研究論文や先行研究の乗り越えを主眼とする研究論文とは違った意味合いで書いてみたいと思って、初めて書いた文芸評論(のようなもの?)が今回の受賞作です。

Q:群像新人文学賞に応募しようと思ったきっかけは何ですか?

A:20代の頃からお世話になっている富岡幸一郎先生が群像新人文学賞を受賞されていたので、群像新人文学賞は私にとってずっと気になる、そして憧れの文学賞でした。学生の頃から、柄谷行人氏など、群像新人文学賞を受賞した方々の文芸評論を駆り立てられるように読んでおり、いつかは自分も応募したいと思っていました。若い時から抱え込んだ課題をようやく文章化することができたので、思い入れのある群像新人文学賞に応募してみました。

Q:受賞作を書いたきっかけ、この題材を選んだ理由を教えてください。

A:中村光夫と同様に、大学生のときに私もフローベールに興味を持ち始めました。フローベールの小説だけでなく、書簡集にもかなり心を惹かれました。またフランス文学を勉強しながらも、日本の近代文学が気になってしかたがないという中村光夫の気質にも共感を覚えました。中村光夫の存在はずっと気になっていて、毀誉褒貶のある中村光夫の批評活動を自分なりに見直してみたいという理由から今回の評論を書きました。

Q:どういう時間に執筆していますか? どんなときにアイディアが浮かびますか?

A:週に1日ある日曜日以外の休日と、出勤前の朝4時に起床して書いています。こう書くと非常にストイックなように思われますが、起床できないことが多々あります……。アイディアが浮かぶのは、通勤の電車の中でボーっとしているときや風呂につかっているときです。

Q:好きな本(小説、評論)、好きな書き手(作家、評論家)を教えてください。

A:好きな作品はたくさんあって書ききれませんが、自分の読書歴の中で転機を作った小説は、中島敦「李陵」、遠藤周作「爾も、また」、横光利一『旅愁』、太宰治「道化の華」、村上春樹『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、村上龍「限りなく透明に近いブルー」などです。好きな作家もたくさんいて何人かを選ぶというのはかなり難しいです。あえて書くとすれば、時代と格闘し続けた横光利一が大変気になります。最近では平成の私小説作家に興味を持っていて、車谷長吉や西村賢太の小説をよく読んでいます。

Q:これから群像新人文学賞に応募する人へメッセージをお願いいたします。

A:書いているときは自己嫌悪に苛まれ、自分の力のなさに愕然として苦しいのですが、〈書く〉こと自体が喜びであり、誰かに読んでもらえること自体が幸福なことなのだと思います。


【評論部門 優秀作】
「〈普遍倫理〉を求めて――吉本隆明「人間の『存在の倫理』」論註」
多羽田敏夫たばたとしお

1948年北海道生まれ。

神奈川県在住。

多羽田敏夫   受賞のことば

Q:評論を書き始めたのはいつ、どのようなきっかけでですか?

A:大学に入って早々、吉本隆明の評論に強烈な洗礼を受けたことが運の尽きです。

Q:群像新人文学賞に応募しようと思ったきっかけは何ですか?

A:評論というジャンルでの新人文学賞の公募が、「群像」の他にないということです。

Q:受賞作を書いたきっかけ、この題材を選んだ理由を教えてください。

A:昨年3月の吉本隆明氏の逝去。晩年近くに述べたその特異な倫理思想をできるかぎり註解することによって、氏への追悼に代えたいと思いました。

Q:どういう時間に執筆していますか? どんなときにアイディアが浮かびますか?

A:締切が切迫している時に執筆しています。アイデアが浮かぶのも同様です。

Q:好きな本(小説、評論)、好きな書き手(作家、評論家)を教えてください。

A:日本の戦後文学に限って強いて挙げれば、 武田泰淳『富士』、大西巨人『神聖喜劇』、森敦『月山』、田中小実昌『ポロポロ』、吉本隆明『高村光太郎』。他に好きな書き手は、深沢七郎、内村剛介、石原吉郎、野見山暁治です。

Q:これから群像新人文学賞に応募する人へメッセージをお願いいたします。

A:野心を持って、そして虚心に。

群像新人文学賞