群像2022年10月号

【特集「弱さ」の哲学】片瀬チヲル 永井玲衣 三木那由他 稲垣 諭 工藤あゆみ 水上 文 江間有沙 栗田隆子 中村英代

 

今月の特集は「「弱さ」の哲学」。肯定、否定、ジャッジ、言いきり――への、ためらいや戸惑い。言いよどみ、立ち止まって思考する、「ここにいる」わたしとあなたのこと。

 

 

休職中。一ヵ月後には復職することになっている。海の近くで暮らす早柚は、今日も砂浜でゴミを拾う。(片瀬チヲル「カプチーノ・コースト」)

 

哲学は人を強くさせるのか。「弱さ」とは何なのか。わからないから考える、哲学者ふたりによる回り道の真摯な対話。(永井玲衣×三木那由他「「弱さ」のこと……」)

 

他者の身体に、少しでも近づこうとすること。わたしたちはどこまでそれをくぐり抜け、向き合い、受け入れる準備ができているのか。思考を進めては疑って戻る、そのくりかえしによって、ひらける世界があるのか。(稲垣 諭「「くぐり抜け」の哲学」)

 

心の扉をノック、ノック。愛しくて切ない、不思議なパワーをもらえるユーモラスな絵と10の言葉。(工藤あゆみ「時が戻りませんように」)

 

「弱さ」からこぼれ落ちるものとはなにか―小説は「切り捨てられるもの」を描く。(水上 文「あなたを許さない――高瀬隼子作品と弱さをめぐる捻れについて」)

 

もっと効率的に、もっと便利に。「強い」技術が、「弱い」わたしたちを支えてくれる。そこでいったん立ち止まる。はたしてわたしたちは、どのような社会に住みたいのだろうか?(江間有沙「人間とロボットのコミュニケーションの可能性――「弱さ」から考える技術の活かし方」)

 

社会的弱者による「弱さ」の語りは、時として受け容れられないことがある。「弱さ」を語り出すときに生じる力、それに対する反応と物語をめぐって。(栗田隆子「おのが社会的弱さを語ること――それを取り巻く力について」)

 

やめたいのに、やめられない。依存症回復コミュニティの実践を通して、自分や他者の、ままならない弱さに光をあてる。(中村英代「〈意志の力〉への信仰がゆらぐ時代に――「弱さ」の可能性」)


【創作】上田岳弘 長島有里枝 宮内悠介

 

かつて存在した完璧な文章を取り戻すために、人類はどこに向かうべきなのか。――こころがすべてだ。こころが体の活動を生んで、それが世界を作ってきた。そう思わない?(上田岳弘「多頭獣の話」)

 

未土里は自分の叫び声で目が覚めた。ピビちゃんの生まれ変わりの夢を見たせいだ。(長島有里枝「チャイとミルク」)

 

ジョンが終生手を入れつづけたMMORPG「ヴィハーラ」にははじめ、世間的な観点において何もなかった。それが、すべてのはじまりだった。(宮内悠介「国歌を作った男」)


【新連載】奈倉有里 【特別寄稿】鷲田清一 【エッセイ】関口涼子

 

大好きなあの人のこと、詩と文学と、彼らが生きた時代と場所に、思いを馳せて。『夕暮れに夜明けの歌を』で話題の著者が、思いのままにロシアを語る、愛に満ちた連載がスタート。(奈倉有里「文化の脱走兵」)

 

精神と身体。ともに傷つきやすい人間の〈生〉の根源にじかに触れ、蘇生、躍動させたふたりの業に迫る。(鷲田清一「中井久夫、そして三宅一生――生きてあることの地肌へ」)

 

人々を生につなぎ止める匂いとは。「戦時下の食」を考える。(関口涼子「戦争の匂いがかぐわしかったことなど一度もない」)


【批評】安藤礼二 【対談】小峰ひずみ×戸谷洋志

 

空海の「両部の大法」と「護国」はどのようにして完成したのか。(安藤礼二「空海」)

 

言葉を用いることは、既存のシステムに抗っていくひとつの可能性である。哲学研究者と批評家による、熱気あふれる対話。(小峰ひずみ×戸谷洋志「結ぶ技術、対話の可能性をめぐって」)


【article】奥野 斐 【論点】尾久守侑 【最終回】松村圭一郎 若松英輔

東京新聞(中日新聞東京本社)社会部記者の奥野 斐さんに参院選をふりかえるarticle「選挙とジェンダー、LGBT――「多様性」を巡る公約点検」をご寄稿いただきました。

 

論点は、作家であり精神科医である 尾久守侑さん による「〈偽物〉とは何か」

 

松村圭一郎さん 「旋回する人類学」若松英輔さん 「見えない道標」が最終回を迎えました。


もくじ

 

 

〈創作〉

 

 

    • 多頭獣の話  上田岳弘

 

    • チャイとミルク  長島有里枝

 

    • 国歌を作った男  宮内悠介

 

 

〈新連載〉

 

 

    • 文化の脱走兵  奈倉有里

 

 

〈特集「「弱さ」の哲学」〉

 

〈創作〉

 

 

    • カプチーノ・コースト  片瀬チヲル

 

 

〈対談〉

 

 

    • 「弱さ」のこと……  永井玲衣×三木那由他

 

 

〈新連載〉

 

 

    • 「くぐり抜け」の哲学  稲垣 諭

 

 

〈短篇集〉

 

 

    • 時が戻りませんように  工藤あゆみ

 

 

〈批評〉

 

 

    • あなたを許さない――高瀬隼子作品と弱さをめぐる捻れについて  水上 文

 

 

〈論考〉

 

 

    • 人間とロボットのコミュニケーションの可能性――「弱さ」から考える技術の活かし方  江間有沙

 

    • おのが社会的弱さを語ること――それを取り巻く力について  栗田隆子

 

    • 〈意志の力〉への信仰がゆらぐ時代に ――「弱さ」の可能性  中村英代

 

 

〈特別寄稿〉

 

 

    • 中井久夫、そして三宅一生――生きてあることの地肌へ  鷲田清一

 

 

〈エッセイ〉

 

 

    • 戦争の匂いがかぐわしかったことなど一度もない  関口涼子

 

 

〈批評〉

 

 

    • 空海〔8〕  安藤礼二

 

 

〈対談〉

 

 

    • 結ぶ技術、対話の可能性をめぐって  小峰ひずみ×戸谷洋志

 

 

〈論点〉

 

 

    • 〈偽物〉とは何か  尾久守侑

 

 

〈article〉

 

 

    • 選挙とジェンダー、LGBT――「多様性」を巡る公約点検  奥野 斐

 

 

〈最終回〉

 

 

    • 旋回する人類学  松村圭一郎

 

    • 見えない道標  若松英輔

 

 

 

 

 

〈連載〉

 

 

 

    • の、すべて〔9〕  古川日出男

 

    • 鉄の胡蝶は夢に記憶は歳月は彫るか〔50〕  保坂和志

 

    • 二月のつぎに七月が〔44〕  堀江敏幸

 

    • 文学ノート・大江健三郎〔2〕  工藤庸子

 

    • 庭の話〔4〕  宇野常寛

 

    • 事務に狂う人々〔5〕  阿部公彦

 

    • 撮るあなたを撮るわたしを〔6〕  大山 顕

 

    • 世界の適切な保存〔6〕  永井玲衣

 

    • なめらかな人〔7〕  百瀬 文

 

    • 文学のエコロジー〔8〕  山本貴光

 

    • 投壜通信〔5〕  伊藤潤一郎

 

    • 磯崎新論〔10〕  田中 純

 

    • 講談放浪記〔10〕  神田伯山

 

    • 「後」の思考〔2〕  石戸 諭

 

    • 地図とその分身たち〔12〕  東辻賢治郎

 

    • 世界と私のAtoZ〔14〕  竹田ダニエル

 

    • 言葉の展望台〔18〕  三木那由他

 

    • こんな日もある 競馬徒然草〔20〕  古井由吉

 

    • 現代短歌ノート二冊目〔25〕  穂村 弘

 

    • 日日是目分量〔26〕  くどうれいん

 

    • 「近過去」としての平成〔31〕  武田砂鉄

 

    • 星占い的思考〔31〕  石井ゆかり

 

    • 辺境図書館〔31〕  皆川博子

 

    • 文芸文庫の風景〔22〕  津田周平

 

    • 極私的雑誌デザイン考〔29〕  川名 潤

 

 

 

 

 

〈随筆〉

 

 

 

    • おいしい物語  今井真実

 

    • 本屋の〝売り場〟と〝場〟  古賀詩穂子

 

    • テーマパークと「ジオ」の知  谷頭和希

 

    • 革命と放蕩  藤井仁子

 

    • わたしの恐竜  ラランド サーヤ

 

 

〈書評〉

 

 

 

 

    • 『ジョン・フォード論』蓮實重彥  上野昻志

 

    • 『ブロッコリー・レボリューション』岡田利規  篠原雅武