群像2023年9月号

【発見】大江健三郎×パスカル・キニャール

今年逝去された大江健三郎さんが、二〇一五年にフランス、エクス・アン・プロヴァンスでおこなっていた小説家との公開対談の音源を発見。ご遺族と関係者の了承のもと、今回初めての活字化が実現しました。

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大江健三郎さん×パスカル・キニャールさん「最も大切な人間の思想/歴史としてのユマニスム」
今年逝去された大江健三郎さんが、二〇一五年にフランス、エクス・アン・プロヴァンスでおこなっていた小説家との公開対談をはじめて活字化。
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【戦争特集・戦場の_ライフ】新田啓子 阿部公彦 藤原辰史 保阪正康 松永美穂 奥野華子

今月号は戦争特集「戦場の_ライフ」を組んでいます。アメリカ文学を通じて「安全保障= security」の概念を考察していく新田啓子さんの新連載がスタート。阿部公彦さん、藤原辰史さん、保阪正康さんにエッセイを、松永美穂さんに批評を、奥野華子さんにarticleを書いていただきました。

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新田啓子さん「セキュリティの共和国——戦略文化とアメリカ文学」
われわれの行動を規定している安全保障=securityの概念はどこからきたのか。アメリカ文学に溶け込んだ文化を導きの糸に考察する。
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阿部公彦さん「父が見た「事務と戦争」」
海軍主計官だった実父が遺した資料で辿る、軍隊と事務とのいびつな関係。
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藤原辰史さん「日常の延長としての戦争」
戦争の危機は、われわれの日常の中に見出せるのではないか。日々の身体の営みを通して歴史を見つめ直す。
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保阪正康さん「ネット時代の「戦陣訓」」
戦後、農村共同体の崩壊によって、「村八分」的な感性、同調圧力も日本から消滅したのだろうか……そうではなさそうだ。
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松永美穂さん「記憶の貯蔵庫としての駅——『アウステルリッツ』とキンダートランスポート」
戦争で名前も母語も失ったアウステルリッツは、記憶の「想起」と「切断」を繰り返しながら、暴力の歴史のなか旅を続ける。
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奥野華子さん「平和な世界ってどんな世界?」
核兵器も気候変動も問題はつながっている。世界のアクティビストたちとともに考え、行動してきた大学生がいま思うこと。
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【新連載】岩内章太郎 【創作】井戸川射子 平沢逸

岩内章太郎さんの新連載「星になっても」は死と喪失のはじまりに戻る哲学エッセイ。

読み切り創作は、井戸川射子さんの短篇「池の中の」と、平沢逸さんの群像新人賞受賞第1作「その音は泡の音」の、2本です。

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岩内章太郎さん「星になっても」
「父さんが死んだことを書いてもいいかな」。大切な人を亡くしたとき、私たちは何を想うのだろう、祈るのだろう。死と喪失のはじまりに戻る哲学エッセイ。
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井戸川射子さん「池の中の」
揺れている、本当は少し前から気づいていた。空っぽの電池の、あるかもしれない傷に目を凝らしながら、忘れない日を思い出していく、言葉がため息のようにあふれて止まる。
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平沢逸さん「その音は泡の音」
夢と現実のあわいで、浮かんでは消える思いの数々。お笑いサークル夏合宿の、十日間の旅。
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【連作】小川公代 工藤庸子 【批評】宇野邦一 【New Manual】片岡義男

連作、小川公代さん「翔ぶ女たち」ではアニメ『水星の魔女』などをとおして、家父長制社会が抑圧してきた〈魔女〉たちを解き放ちます。工藤庸子さん「文学ノート・大江健三郎」第6回は、「沸騰的なような一九七〇年代——大江健三郎/蓮實重彥」。

批評は宇野邦一さん「新しいコギト、あるいは非有機的生」。ドゥルーズとともに「器官なき身体」を思考します。

「文」×「論」×「服」——「New Manual」第3回は、片岡義男さんに「月の光と薔薇の花」をご寄稿いただきました。

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小川公代さん「翔ぶ女たち 魔女たちのエンパワメント——『テンペスト』から『水星の魔女』まで」
現代のアニメ『水星の魔女』が、シェイクスピアの『テンペスト』から受け継がなかったもの。家父長制社会が抑圧し、排除してきた〈魔女〉たちを解き放つ。
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工藤庸子さん「文学ノート・大江健三郎 沸騰的なような一九七〇年代——大江健三郎/蓮實重彥」
読み直すことで、現れる二人の「共鳴」。蓮實批評の誕生から、『表層批評宣言』『大江健三郎論』までの軌跡を追う。
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宇野邦一さん「新しいコギト、あるいは非有機的生」
「器官なき身体」とは何なのか。アルトーが人間の生につきつけた「法外」な要求をめぐって、ドゥルーズとともに思考する。
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片岡義男さん「月の光と薔薇の花」
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【論点スペシャル】佐井大紀 杉本章吾 田中みゆき 鳥羽和久 福田和子 山本圭

論点はスペシャル版でお送りします。佐井大紀さん(ドキュメンタリー)、杉本章吾さん(岡崎京子)、田中みゆきさん(視覚中心主義)、鳥羽和久さん(BTS)、福田和子さん(SRHR)、山本圭さん(自慢)にご寄稿いただきました。質・量ともに充実の6つの論です。

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佐井大紀さん「ドキュメンタリーの実験と挫折と快楽」
私は連続ドラマの仕事をしながら、ドキュメンタリーを撮っている。二〇二三年現在進行形の、ドキュメンタリー、メディア、テレビ論。
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杉本章吾さん「岡崎京子を今読みなおすこと」
岡崎京子作品にたゆたうあてどなさはどこにあるのか——。資本主義リアリズムに覆われた日韓社会の、今日における岡崎京子のアクチュアリティを考える。
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田中みゆきさん「押しつけられた暗闇」
目が見えないという事実には、何か特別な意味がないといけないのだろうか。言語における視覚中心主義について考える。
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鳥羽和久さん「BTS ——救済の文学」
曖昧で背反する個を抱えながら、作品、メディア、ファンダムをも作品の一部として付置したアイドル、BTS。SNS時代における、彼らのたくらみのかつてない新しさとは何か。
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福田和子さん「300年の「無力」を超えて SRHRという希望」
自分のからだを大切にしたい——たったそれだけの願いを実現しにくい日本を変えよう。女性が主体的に避妊できるように。自分のからだを、人生を、あきらめなくてもいいように。
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山本圭さん「誇示考」
かつては誇示にも作法があった。なぜ人は愚行をSNSで公開してしまうのか。現代社会を動かす「自慢」の政治学を探求する。
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本の名刺は、石田夏穂さん(『我が手の太陽』)、皆川博子さん(『天涯図書館』)、村雲菜月さん(『もぬけの考察』)、村田喜代子さん(『新古事記』)、夢野寧子さん(『ジューンドロップ』)。本誌掲載作が続々単行本化しています。


もくじ

文×論。

 

〈発見〉

  • 「最も大切な人間の思想/歴史としてのユマニスム」大江健三郎×パスカル・キニャール

 

〈戦争特集・戦場の_ライフ〉

新連載

  • 「セキュリティの共和国——戦略文化とアメリカ文学」新田啓子

エッセイ

  • 「父が見た「事務と戦争」」阿部公彦
  • 「日常の延長としての戦争」藤原辰史
  • 「ネット時代の「戦陣訓」」保阪正康

批評

  • 「記憶の貯蔵庫としての駅——『アウステルリッツ』とキンダートランスポート」松永美穂

article

  • 「平和な世界ってどんな世界?」奥野華子

 

〈新連載エッセイ〉

  • 「星になっても」岩内章太郎

 

〈創作〉

  • 「池の中の」井戸川射子

〈中篇一挙〉

  • 「その音は泡の音」平沢逸

 

〈連作〉

  • 「翔ぶ女たち 魔女たちのエンパワメント——『テンペスト』から『水星の魔女』まで」小川公代
  • 「文学ノート・大江健三郎 沸騰的なような一九七〇年代——大江健三郎/蓮實重彥」工藤庸子

 

〈批評〉

  • 「新しいコギト、あるいは非有機的生」宇野邦一

 

〈New Manual〉

  • 「月の光と薔薇の花」片岡義男

 

〈論点スペシャル〉

  • 「ドキュメンタリーの実験と挫折と快楽」佐井大紀
  • 「岡崎京子を今読みなおすこと」杉本章吾
  • 「押しつけられた暗闇」田中みゆき
  • 「BTS ——救済の文学」鳥羽和久
  • 「300年の「無力」を超えて SRHRという希望」福田和子
  • 「誇示考」山本圭

 

〈本の名刺〉

〈連載〉

    • 「無形〔3〕」井戸川射子
    • 「B〔3〕」松浦寿輝
    • 「タブー・トラック〔7〕」羽田圭介
    • 「多頭獣の話〔12〕」上田岳弘
    • 「鉄の胡蝶は歳月の記憶に夢に彫るか〔61〕」保坂和志
    • 「二月のつぎに七月が〔50〕」堀江敏幸
    • 「ゲは言語学のゲ〔2〕吉岡乾
    • 「養生する言葉〔3〕」岩川ありさ
    • 「メタバース現象考 ここではないどこかへ〔3〕」戸谷洋志
    • 「言葉と物〔3〕」福尾匠
    • 「海をこえて〔3〕」松村圭一郎
    • 「群像短歌部〔3〕」木下龍也
    • 「チャンドラー講義〔4〕」諏訪部浩一
    • 「星沙たち、〔4〕」青葉市子
    • 「レディ・ムラサキのティーパーティー 姉妹訳 ウェイリー源氏物語〔10〕」毬矢まりえ×森山恵
    • 「野良の暦〔11〕」鎌田裕樹
    • 「「くぐり抜け」の哲学〔12〕」稲垣諭
    • 「文化の脱走兵〔11〕」奈倉有里
    • 「庭の話〔14〕」宇野常寛
    • 「世界の適切な保存〔17〕」永井玲衣
    • 「なめらかな人〔18〕」百瀬文
    • 「磯崎新論〔21〕」田中純
    • 「「後」の思考〔6〕」石戸諭
    • 「地図とその分身たち〔22〕」東辻賢治郎
    • 「言葉の展望台〔27〕」三木那由他
    • 「こんな日もある 競馬徒然草〔31〕」古井由吉
    • 「現代短歌ノート二冊目〔35〕」穂村弘
    • 「日日是目分量〔37〕」くどうれいん
    • 「星占い的思考〔42〕」石井ゆかり
    • 「所有について〔25〕」鷲田清一
    • 「国家と批評〔32〕」大澤聡
    • 「〈世界史〉の哲学〔150〕」大澤真幸
    • 「文芸文庫 の風景〔33〕」川勝徳重
    • 「文一の本棚〔3〕」永井みみ

 

〈随筆〉

    • 「主客の狭間にて」朝比奈秋
    • 「まるで駅北口を歩く人のように」海野農
    • 「バンシーの話」酒井朋子
    • 「手の記憶」高柳聡子
    • 「自分の家だったら」鳥山まこと
    • 「青のいただき」野々井透
    • 「88歳の友達?」野村由芽

 

〈書評〉