群像2024年4月号

【震災後の世界13】【創作】古川日出男 【対談】柴崎友香×古川日出男

今年もまたひとつカウントされた、「震災後の世界13」では、古川日出男さん「キカイダー、石巻、鳥島、福島」に巻頭をつとめていただいています。『ゼロエフ』で歩き、書いた古川さんが、つぎの一歩目を踏み出します。その古川日出男さんと、最新刊『続きと始まり』でもそうですが、「震災」が創作における大きなモチーフのひとつとなっている柴崎友香さんに、「震災/記憶/場所/書くこと」について対話をしていただいた「書けないところから始まる」も、あわせてお読みください。

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古川日出男さん「キカイダー、石巻、鳥島、福島」

時間と場所と記憶が発酵し、語られなかった言葉が身体からあふれ出す。付着したイメージを排せよ。見たこと聞いたことから判断せよ。『あるこうまたあおう』の一歩目を踏み出す。

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柴崎友香さん×古川日出男さん「書けないところから始まる」

震災を経験しながら、書かずにいたこと、書けずにいたこと。災禍の後の時間に、ふたりが探し続けたこと。

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【新連載】阿部公彦 鈴木涼美

新連載がふたつ始まります。まず阿部公彦さん「父たちのこと」。本誌連載から単行本化、版を重ねている『事務に踊る人々』の「おわりに」に書かれていた阿部さんの父のこと。海軍主計少尉=「事務屋」として任官した父は、軍隊という武装組織の末端で、戦争をどうとらえたのか。阿部さんが迫ります。もうひとつは、鈴木涼美さんによる「不浄流しの少し前」。不浄流しというのは、お祭りの後に降る雨のことだそうです。自らの記憶のあわいに踏みいったときに立ち上がってくるものを記していっていただきます。

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阿部公彦さん「父たちのこと」

太平洋戦争末期に海軍経理学校を卒業し、主計少尉として任官した父。武装組織の末端で「事務屋の目」は戦争をどうとらえたのか。話題書『事務に踊る人々』のあとがきから生まれた新連載がスタート。

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鈴木涼美さん「不浄流しの少し前」

不浄流し、祭りの後にふる雨のこと。霧につつまれた混沌が、美しく忘れ去られてしまわぬうちに。滲む記憶のあわいへ踏みいったときに立ち上がるもの。

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【創作】小川洋子 高橋源一郎

創作は、小川洋子さん「踊りましょうよ」と、高橋源一郎さん「オオカミの」という連作の最新作。

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小川洋子さん「踊りましょうよ」

耳を重ね合わせたふたりは、カルテットの演奏で一続きになってステップを踏む。

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高橋源一郎さん「オオカミの」〔3〕

わたしが会った「おじいさん」は昔『センセイ』で、ほんとうに大切なことは、みんな、『コクバン』に『ハクボク』で書くものだったと教えてくれた。

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【第三部始動】工藤庸子 【刊行記念選書】松浦寿輝×沼野充義×田中純

工藤庸子さんが大江健三郎作品を「リリーディング」する、「文学ノート・大江健三郎」。第三部「神話・歴史・伝承」では、『万延元年のフットボール』と『同時代ゲーム』を扱います。長期にわたって本誌で討議を重ね完結した松浦寿輝さん×沼野充義さん×田中純さん『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』、「超レンガ本」がついに刊行。お三方に「二〇世紀」を振り返る三〇冊を選書していただきました。

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工藤庸子さん「文学ノート・大江健三郎 Ⅲ 神話・歴史・伝承 『万延元年のフットボール』『同時代ゲーム』」

「本の持つ構造のパースペクティヴにおいて読むこと」とはどういうことか? 読み直しの仕事はいまなお続く。

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松浦寿輝さん×沼野充義さん×田中純さん「「二〇世紀の夢」を読む30冊」

四年にわたって続いた連続討議がついに単行本化。「二〇世紀」を振り返る三〇冊を選書する。わたしたちもまた、新たな夢を見る。

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【刊行記念対談】町田康×毬矢まりえ、森山恵 【批評】安藤礼二

単行本化された毬矢まりえさん、森山恵さん『レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」』をめぐって、『口訳 古事記』が大好評の町田康さんとおふたりが語り合った特別対談「「らせん訳」とは何か――時空を超えて木霊する言葉」。現代の「シャーマン」として古典を蘇らせた三人の「ティーパーティ」をぜひお楽しみください。批評は安藤礼二さん「空海」が佳境を迎えています。「本の名刺」は新人賞出身作家の二作品。平沢逸さん『その音は泡の音』、村雲菜月さん『コレクターズ・ハイ』です。

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町田康さん×毬矢まりえさん、森山恵さん「「らせん訳」とは何か ――時空を超えて木霊する言葉」

百年前にアーサー・ウェイリーが英訳した「源氏物語」を現代日本語に再翻訳した毬矢・森山姉妹と、「古事記」をいまの話し言葉で蘇らせた町田康。創作と翻訳の新たな可能性を探る対話。

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安藤礼二さん「空海」〔14〕

「我」こそが真言を語る。空海が立った場とは。

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平沢逸さん「本の名刺」/『その音は泡の音

村雲菜月さん「本の名刺」/『コレクターズ・ハイ

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【最終回】戸谷洋志 堀江敏幸 百瀬文

戸谷洋志さん「メタバース現象考 ここではないどこかへ」、堀江敏幸さん「二月のつぎに七月が」、百瀬文さん「なめらかな人」が、それぞれ最終回となりました。

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戸谷洋志さん「メタバース現象考 ここではないどこかへ」

超スマート社会=デジタルネイチャーとは異なる、メタバースの方向性とは何か。

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堀江敏幸さん「二月のつぎに七月が」

変わりゆくものの流れにありながら、食堂には今も誰かの声によって語られる言葉がある。お祭りの熱気のなかでさまよい、ひとはまた近づき、離れていく。

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百瀬文さん「なめらかな人」

死ぬこと自体にはあまり興味がないが、自分の体がなくなるということには寂しさを覚えるというか、未練が残る。——好評エッセイ完結。

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もくじ

文×論。

〈震災後の世界13〉

〈創作〉

「キカイダー、石巻、鳥島、福島」古川日出男

〈対談〉

「書けないところから始まる」柴崎友香×古川日出男

 

〈新連載〉

  • 「父たちのこと」阿部公彦
  • 「不浄流しの少し前」鈴木涼美

 

〈創作〉

  • 「踊りましょうよ」小川洋子
  • 「オオカミの」〔3〕高橋源一郎

 

〈第三部始動〉

「文学ノート・大江健三郎 Ⅲ 神話・歴史・伝承 『万延元年のフットボール』『同時代ゲーム』」工藤庸子

 

〈『レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」』刊行記念対談〉

「「らせん訳」とは何か ――時空を超えて木霊する言葉」町田康×毬矢まりえ、森山恵

 

〈『徹底討議 二〇世紀の思想・文学・芸術』刊行記念選書〉

「「二〇世紀の夢」を読む30冊」松浦寿輝×沼野充義×田中純

 

〈批評〉

「空海」安藤礼二

 

〈本の名刺〉

 

〈最終回〉

  • 「メタバース現象考 ここではないどこかへ」戸谷洋志
  • 「二月のつぎに七月が」堀江敏幸
  • 「なめらかな人」百瀬文

〈連載〉

  • 「Wet Affairs Leaking 」〔4〕阿部和重
  • 「無形」〔10〕井戸川射子
  • 「鉄の胡蝶は歳月の記憶に夢に彫るか」〔68〕保坂和志
  • 「第ゼロ次世界大戦」〔2〕鹿島茂
  • 「誰もわかってくれない――なぜ書くのか」〔2〕武田砂鉄
  • 「デビュー前の日記たち」〔2〕宮内悠介
  • 「天皇機関説タイフーン 」〔3〕平山周吉
  • 「日吉アカデミア一九七六」〔4〕原武史
  • 「「宗教の本質」とは?」〔4〕釈徹宗×若松英輔
  • 「ハザマの思考」〔7〕丸山俊一
  • 「セキュリティの共和国――戦略文化とアメリカ文学」〔8〕新田啓子
  • 「星になっても」〔8〕岩内章太郎
  • 「ゲは言語学のゲ」〔9〕吉岡乾
  • 「養生する言葉」〔9〕岩川ありさ
  • 「僕と「先生」」〔4〕長瀬海
  • 「海をこえて」〔8〕松村圭一郎
  • 「群像短歌部」〔10〕木下龍也
  • 「チャンドラー講義」〔11〕諏訪部浩一
  • 「星沙たち、」〔10〕青葉市子
  • 「野良の暦」〔18〕鎌田裕樹
  • 「文化の脱走兵」〔18〕奈倉有里
  • 「世界の適切な保存 」〔22〕永井玲衣
  • 「世界と私のA to Z」〔34〕竹田ダニエル
  • 「現代短歌ノート二冊目」〔42〕穂村弘
  • 「日日是目分量」〔44〕くどうれいん
  • 「星占い的思考」〔49〕石井ゆかり
  • 「国家と批評」〔34〕大澤聡
  • 「〈世界史〉の哲学 」〔155〕大澤真幸
  • 「文一の本棚」〔10〕野々井透

 

〈随筆〉

  • 「u」青松輝
  • 「涙涙是好日」新胡桃
  • 「本の背中」笠井瑠美子
  • 「スペイン、気がつけば…… 」くさかみなこ
  • 「魂か肉体か」白鳥菜都
  • 「自己紹介文」嶽村智子
  • 「希望の怪物とゆく」田村景子
  • 「一寸先は、」西村亨
  • 「使い古したよろこびについて」雛倉さりえ
  • 「「論破」する子どもたち」松村一志
  • 「生活と女性史の交差するところ」山家悠平

 

〈書評〉