群像2014年10月号

〈変愛小説〉偏愛座談 岸本佐知子×川上弘美×村田沙耶香×本谷有希子

『変愛小説集 日本作家編』の刊行を記念し、編者である岸本佐知子を司会に、川上弘美村田沙耶香、本谷有希子との座談会が行われました。それぞれが生み出した「変愛小説」を振り返りつつ、岸本佐知子と川上弘美が勧める「変愛」の名作を読み直します。そこから見えてきた「変愛」の定義とは? そして、人が「変愛」に惹かれる理由とは?


変愛小説集 温故知新編

岸本佐知子・川上弘美 選

日本の名だたる作家たちの作品の中には、「変愛」としか言いようのない名作がたくさん見つかる――。岸本佐知子川上弘美の両氏が考える、日本の「変愛名作」を再録。娘の片腕を一晩借り受けた男の物語、川端康成「片腕」。突然身体の奥底からわいてきた女になりたい願望……、藤枝静男「出てこい」。意中の女の糞を見て思いを断ち切ろうとする男を描いた、芥川龍之介「好色」。驚くほど鼻のいいインテリ・山村氏は実は……!? 尾崎翠「山村氏の鼻」。麻酔なしの外科手術を願う女の目的は? 泉鏡花「外科室」。「『変愛小説』偏愛座談」とともにお楽しみください。


町田 康「ホサナ」

川上弘美「踊る子供」

町田康の連作「ホサナ」は第8回。犬の言葉を翻訳することで稼げるようになった私だが、日ノミココこと草子の事務所でそれを行っていたため、ヨーコたちスタッフから虐げられるようになって……。

将来「見守り」となる地域に生まれにもかかわらず、活発で踊ることが大好きなその子供に、母たちは困り果てていた。特例として大きな母に育てられ、なんとか「見守り」となった子供は、向かった先で「男」に出会う――。川上弘美の連作短篇「踊る子供」、大きな物語がついに動き出します。


群像新人賞受賞後第一作

岡本 学「Identity Provider」

「自分がいなくなったあとの自分の部屋を見てみたい」、そんな希望を口にする幼い湯本修治に医師は言った。君から見えない世界があるのは事実だが、無理に見ようとするとバチがあたる――。『架空列車』で群像新人文学賞を受賞した岡本学が、世界を正八面体でとらえた奇妙な中篇「Identity Provider」、現実と妄想の境を描きます。


鬼才による二つの短篇

深堀 骨

『変愛小説集 日本作家編』に収録された「逆毛のトメ」が話題の深堀骨による短篇2作を掲載。仔熊を抱きたくて居ても立っても堪らなくなったから、私は今日も屋敷の通気管を匍匐前進して庭に向かう――「匍匐前進」。「腰巻弁天ロマンチカ商店街」復興のため、鈴木電機店(本当は金令木電機店)の二代目は、謎のお客とともにゆるキャラを考え出す……「鈴木電機店繁盛記」。抱腹絶倒の2篇、必読です。


もくじ

〈座談会〉

〈変愛小説〉偏愛座談  岸本佐知子×川上弘美×村田沙耶香×本谷有希子

〈変愛小説集 温故知新編〉

片腕  川端康成

出てこい  藤枝静男

好色  芥川龍之介

山村氏の鼻  尾崎 翠

外科室  泉 鏡花

〈連作小説〉〔8〕

ホサナ  町田 康

〈連作短篇〉〔4〕

踊る子供  川上弘美

〈創作〉

Identity Provider  岡本 学

〈2つの短篇〉

匍匐前進

鈴木電機店繁盛記  深堀 骨

〈連載小説〉

尻尾と心臓〔4〕  伊井直行

虚人の星〔4〕  島田雅彦

ビビビ・ビ・バップ〔10〕  奥泉 光

〈連載評論〉

チェーホフとロシアの世紀末〔6〕  沼野充義

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔10〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔66〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔55〕  穂村 弘

映画時評〔70〕  蓮實重彦

〈随筆〉

目取真俊、そしてスーザン・ブーテレイ  藤井貞和

aikoについて――日常の中の愛の巫女  檜垣立哉

「岸辺のアルバム」を歩く  泉 麻人

花は咲いたのか?  上田岳弘

〈私のベスト3〉

マイナー言語ワーカーの愉しみ  青木順子

愛してるって百回いわせて  島本ちひろ

好きな焦点距離  林家彦いち

〈書評〉

どろのちから(『どろにやいと』戌井昭人)三浦雅士

自力婚への道(『結婚』橋本 治)石田 千

日常生活のネットワーク(『春の庭』柴崎友香)松田青子

拡張されたマゾヒズム(『メタモルフォシス』羽田圭介)坂上秋成

〈創作合評〉

吉増剛造+中条省平+長野まゆみ

「九年前の祈り」小野正嗣(群像2014年9月号)

「ザビエルが欲しい」朝比奈あすか(群像2014年9月号)

「Masato」岩城けい(すばる2014年9月号)