群像2012年12月号

短篇小説特集 三木 卓、高村 薫、津村記久子、大竹昭子、岸本佐知子(訳)、沼野恭子(訳)

不意に持ちかけられた、心臓の新しい治療法のゆくえは(三木卓「咳」)。誰もが近くにあるという「鈴木商店」がなぜかぼくには見つけられなくて――(高村薫「生還者」)。母親、私、娘。女三人暮らしの我が家、台所は取り合いだ(津村記久子「台所の停戦」)。ほか、豪華執筆陣による短篇6篇を掲載! 


連作完結 長野まゆみ「P.」

連作小説第4回 町田 康「ホサナ」

長野まゆみの連作小説がついに完結! かつて死にかけたことのある義兄は、朦朧とする意識の中で「声」と契約を結び、十七年だけ生き延びた。タイムリミットが来たのか、ある日姿を消した義兄。代わりに現れたのは、ウサギの着ぐるみで――。

町田康「ホサナ」は第4回。私は入念に準備し、正しいバーベキューの開催を目指すのだが、やって来たのは、禱子、日本平、草子の三人と犬二匹だけ。しかも現場は荒れに荒れて――。


新鋭の力作中篇2本

日和聡子、橋口いくよ

私は猫の君子たる夜見闇(よみやみ)君の屋敷に居候する身。ある日、繭君の終日(ひねもす)君を、佐左目谷(ささめがやつ)君のもとにお連れする御命を授かった。新鋭・日和聡子が描く奇妙で愉快な冒険譚「御命授天纏佐左目谷行(ごめいさずかりてんてんささめがやつゆき)」。 

昨日まで私は、普通の子だったはず、なのに。どこかズレた転校生ミナが引き起こした「宗教ごっこ」。まつり上げられた私はやがて――。橋口いくよ「かめこさま」、必読です!


講演録 古井由吉

「翻訳と創作と」

自分の執拗なまでの「書き直し癖」は、翻訳の仕事の後遺症だ――。「推敲」という言葉の成り立ちにも関わる翻訳という仕事の繊細さ、困難さ。そして、自分の書いたものへの恣意感、そこから生まれる昏迷感と闘い続けなくてはならない、創作という仕事の苦しさ。作家・古井由吉を形作る「翻訳と創作」に本人が迫ります。


追悼 丸谷才一

瀬戸内寂聴、筒井康隆、鹿島 茂

作家、英文学者、評論家であり、多くの文芸賞の選考委員をつとめた丸谷才一。今年10月に鬼籍に入った氏をしのび、瀬戸内寂聴筒井康隆鹿島茂のお三方からご寄稿いただきました。


もくじ

〈短篇小説特集〉

咳 三木 卓

生還者 高村 薫

台所の停戦 津村記久子

二兎と偽札と蛙の目 大竹昭子

テオ デイヴ・エガース 岸本佐知子・訳

おばあさん、スズメバチ、スイカ ザハール・プリレーピン 沼野恭子・訳

〈連作完結〉

P.  長野まゆみ

〈連作小説〉

ホサナ〔4〕 町田 康

〈創作〉

御命授天纏佐左目谷行  日和聡子

かめこさま  橋口いくよ

〈講演録〉

翻訳と創作と  古井由吉

〈追悼 丸谷才一〉

丸谷才一さんとのつき合い  瀬戸内寂聴

面白さに拘り続けた人  筒井康隆

官能的なものに迷わされる知識人  鹿島 茂

〈連載小説〉

地上生活者 第五部 邂逅と思索〔10〕   李 恢成

晩年様式集(イン・レイト・スタイル)〔11〕   大江健三郎

夜は終わらない〔16〕   星野智幸

燃える家〔26〕   田中慎弥

未明の闘争〔38〕   保坂和志

〈連載評論〉

フランス文学と愛〔11〕   野崎 歓

〈世界史〉の哲学〔45〕    大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔33〕   穂村 弘

「生」の日ばかり〔45〕   秋山 駿

映画時評〔48〕   蓮實重彦

〈随筆〉

思い込んだら、それまでよ  森村泰昌

みなまで言ったところで  木内 昇

莫言、この二十年  茅野裕城子

小説修行  平田オリザ

ムービー・イン・ムービー  向井万起男

〈私のベスト3〉

わたしが見つけた夜露死苦現代詩2012  山内マリコ

好きな動物  辛酸なめ子

森の奥  木地雅映子

〈書評〉

平安の随筆家、平成の小説家(『月の輪草子』瀬戸内寂聴)   酒井順子

全ての女子への誠実な祈り(『七緒のために』島本理生)   辻村深月

抜け目ない挑戦(『犬とハモニカ』江國香織)   阿部公彦

「千円札小説論」の実践(『この人を見よ』後藤明生)   坪内祐三

〈創作合評〉

高橋源一郎+富岡幸一郎+海猫沢めろん

「獅子渡り鼻」岡崎祥久(群像2012年11月号)

「行方」日和聡子(群像2012年11月号)

「わたしは妊婦」大森兄弟(文藝2012年冬号)