群像2014年12月号

新境地を開く意欲作

長野まゆみ「冥途あり」

東京の下町に生きた父は、昭和20年、郷里の広島へ疎開していた。下戸で甘いものが大好きだった父、80歳を過ぎても小学校の同窓会に出かけていた父、8月6日を爆心地から2.5キロの距離で向えた父、背中に広島のガラス片が入ったまま逝った父――。長野まゆみ「冥途あり」、父の死を見つめる娘が呼び戻す一族の物語です。


超絶技巧の新連載

いとうせいこう「我々の恋愛」

第17回「20世紀の恋愛を振り返る15ヵ国会議」最終日。世界を代表する恋愛学者たちが締めくくりとして選んだのは、日本で起きた事例だった。一本の留守番電話から始まった「20世紀最高の恋愛」とは果たして。いとうせいこうの超絶技巧が冴える「我々の恋愛」、連載開始です。


驚異の新人が描く魅惑の世界

宮下 遼「無名亭の夜」

帝国の属州になってはや10年、領主の息子であった少年は、人の好い兵隊から帝国の文字と詩を教えられる。それは稀代の詩人誕生の瞬間だった――。気鋭の新人がはるか昔の異国を舞台に描く魅惑の物語、宮下遼「無名亭の夜」、必読です。


堂垣園江「浪華古本屋騒動記」

川上弘美「大きな鳥にさらわれないよう」

大阪の名物古本屋の二代目である啓太は、父のライバルだった高津に、無能だボンだと馬鹿にされる日々。あるとき、奇妙な地図が見つかって……。堂垣園江「浪華古本屋騒動記」、”宝探し”に胸躍る一作です。

あたしはいつだって孤独だ。家でも、小学校でも。たいがいの人は嘘をつくし、あたしにはそれがなんとなくわかる――。川上弘美の連作、第5回は「大きな鳥にさらわれないよう」。物語のピースは、少しずつうまっていきます。


高橋源一郎「『死に支度』を読んで」

対談 平野啓一郎×大澤真幸

瀬戸内寂聴が若き秘書・モナとの触れ合いから考える生と死――。「群像」に連載された感動長篇『死に支度』。92歳の著者が到達した渾身の一作に、「物語は終わらない」と名づけた随想で、高橋源一郎が熱い思いをつづります。

平野啓一郎『「生命力」の行方――変わりゆく世界と分人主義』刊行を記念し、大澤真幸との対談が行われました。対談「予測不可能な未来を生きる」、ポストモダニズム、資本主義、キリスト教……、刺激的なキーワードから現代を考えます。


もくじ

〈中篇〉

冥途あり  長野まゆみ

〈新連載〉

我々の恋愛  いとうせいこう

〈中篇〉

無名亭の夜  宮下 遼

〈創作〉

浪華古本屋騒動記 前篇  堂垣園江

〈連作〉〔5〕

大きな鳥にさらわれないよう  川上弘美

〈随想〉

物語は終わらない――瀬戸内寂聴『死に支度』を読む  高橋源一郎

〈対談〉

予測不可能な未来を生きる  平野啓一郎×大澤真幸

〈連載小説〉

尻尾と心臓〔6〕  伊井直行

虚人の星〔6〕  島田雅彦

ビビビ・ビ・バップ〔12〕  奥泉 光

〈連載評論〉

チェーホフとロシアの世紀末〔8〕  沼野充義

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔12〕  片山杜秀

〈連載〉

映画時評 最終回  蓮實重彦

現代短歌ノート〔57〕  穂村 弘

〈随筆〉

「怖い話」の話  平岡 敦

南カリフォルニアのティラノサウルス  矢口祐人

ミスター・サンクス  横山悠太

交渉  浅生 鴨

〈私のベスト3〉

電信柱が出てくる話  中島京子

地球人ってステキ  吉村萬壱

酩酊三訓  清武英利

〈書評〉

第一幕を終えたばかりの〈死に支度〉(『死に支度』瀬戸内寂聴)山折哲雄

ディストピアを悦ばしく生きる(『献灯使』多和田葉子)野崎 歓

星は昔やん(『ルンタ』山下澄人)山城むつみ

善悪の彼岸を流れる水(『水声』川上弘美)松永美穂

やっぱりだまされた(『繁栄の昭和』筒井康隆)養老孟司

〈創作合評〉

松浦寿輝+蜂飼 耳+宮下 遼

「偽詩人抄伝」四元康祐(群像2014年11月号)

「海賊のうた」いしいしんじ(新潮2014年11月号)

「泥棒」滝口悠生(群像2014年11月号)