群像2015年5月号

野心作160枚 海猫沢めろん

「キッズ・ファイヤー・ドットコム」

帰宅すると、部屋の前には見知らぬ赤ちゃんが!? 試練を前に逃げ出すことは、カリスマホストの本能が許さない。この国の未来を変える「IT子育て」が始まった! 「キッズ・ファイヤー・ドットコム」、気鋭・海猫沢めろんによる超弩級の野心作です。


中篇110枚 

長野まゆみ「まるせい湯」

幼い日、あやめが咲くころになると、親戚たちと水郷へでかけた。霞ヶ浦ではやんちゃな双子たちと湯屋「まるせい湯」に通った。その「まるせい湯」が廃業になると聞きつけた私は……。思い出からただよう死者の息づかい。長野まゆみ「まるせい湯」、必読です。


連作第9回 

町田 康「ホサナ」

町田康の連作「ホサナ」は第9回。犬たちを思うがままに「導く」ことのできる日ノミココこと草子を抱く組織は、意地悪だが敏腕なヨーコの運営により、ますます多くのスタッフと犬たちを得ることとなった。失敗し続け組織内での地位を失った「私」はヨーコに命じられ、犬たちによる芝居を脚本・演出することとなるが……!?


黒井千次「本棚の隅」、川上弘美「Interview」、片岡義男「バスの座席へのセレナーデ」

「思想検事」であった父の書き記した分厚い報告書。それを想像もしなかった場所であまりにも簡単に見つけてしまった息子は、その発見を素直に喜べず……。黒井千次の連作第5回は、「本棚の隅」

川上弘美の蓮作第9回は、見守りによるある人物への「Interview」。少し緑がかった皮膚を持ち、三歳の頃から一度も眠っていない”彼”の暮らし、それは――。

作家の伊達明彦は立ち寄った古書店で、十五年前にインタビューした元ストリッパー玲美と再会する。彼女はいま、独自の棚づくりで雑誌にも取り上げられる古書店の店長で――。片岡義男の連作第4話、「バスの座席へのセレナーデ」、短篇の正しい終わり方とは?


清水良典「デビュー小説論 山田詠美『ベッドタイムアイズ』」

清水良典の連作評論「デビュ-小説論」、今回取り上げるのは山田詠美『ベッドタイムアイズ』。日本人のクラブ歌手と横須賀米軍基地に所属する黒人兵士の性愛を描いた本作を、作中にも登場するボ-ルドウィンの『もう一つの国』と共に解明します。


もくじ

〈中篇160枚〉

キッズ・ファイヤー・ドットコム  海猫沢めろん

〈中篇110枚〉

まるせい湯  長野まゆみ

〈連作〉〔9〕

ホサナ  町田 康

〈連作短篇〉

本棚の隅  黒井千次

Interview  川上弘美

バスの座席へのセレナーデ  片岡義男

〈連作評論〉〔6〕

偽「あばずれ(ビッチ)」のカリキュラム――山田詠美『ベッドタイムアイズ』  清水良典

〈連載小説〉

オライオン飛行〔3〕  髙樹のぶ子

我々の恋愛〔6〕  いとうせいこう

尻尾と心臓〔10〕  伊井直行

虚人の星〔11〕  島田雅彦

ビビビ・ビ・バップ〔17〕  奥泉 光

〈連載評論〉

チェーホフとロシアの世紀末〔13〕  沼野充義

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔16〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔71〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔62〕  穂村 弘

〈随筆〉

十年の距離感  津村記久子

教育者としての今村昌平  佐藤忠男

春の調理  小山田浩子

神様のメッセージ  大谷ノブ彦

〈私のベスト3〉

金魚三景  淺川継太

後味最悪、韓国ノワール  曽根圭介

原発事故後の世界に持っていく三作  中村真夕

〈書評〉

鉄都に生きる市井の人々(『八幡炎炎記』村田喜代子)富岡幸一郎

はたして美々加は平成にもどれるのか(『時穴みみか』藤野千夜)中島京子

詩人の詩(私)小説(『偽詩人の世にも奇妙な栄光』四元康祐)松永美穂

この国の人間は電車道を作る(『電車道』磯﨑憲一郎)上田岳弘

慈悲深い助産師の無慈悲な手(『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』ジュディ・バドニッツ著、岸本佐知子訳)青山七恵

〈創作合評〉

鴻巣友季子+佐々木 敦+青木淳悟

「私の恋人」上田岳弘(新潮2015年4月号)

「牢名主」津村記久子(群像2015年4月号)

「三十八度通り」酉島伝法(群像2015年4月号)