アンソロジー

「30年後の世界――作家の想像力」

東日本大震災から35年、戦後101年の〈30年後〉を、作家はどう描くのか。重要なのは予想ではなく、想像すること。それこそが、文学の持つ力なのではないでしょうか。他者への多様であたたかな気づきが生まれることを願って――。特集「30年後の世界――作家の想像力」、アンソロジー12篇と、3人の作家による鼎談をお届けします。


津島佑子、高村薫、古川日出男、津村記久子

2046年、ついにセシウムが半減期を迎えました。祝いましょう、寿ぎましょう。新しい事故がまた、起きてはいるけれど――。津島佑子「半減期を祝って」

その丘に住む住民たちは、ほとんど孤立していた。外の息吹きを感じるのは、食べ物や日用品を積んだ移動販売車が来てくれる時だけだ。髙村薫「移動販売車」、車は戦争の匂いも運んでくる。

“ノラネコ”のほとんどは、17歳で死んでしまう。だからそれまで、彼らは全力で闘い学ぶ。強く賢くなければ、この世界では生き抜けないのだから――。古川日出男「列島、ノラネコ刺すノライヌ」。30年後の未来を走り抜けるのは、“彼ら”だ。

津村記久子の「現代生活手帖」は、一人暮らしの女性が毎年楽しみにしている不思議なカタログの物語。30年後の未来の道具は、意外に身近で、変てこな縁で結びついている!? ユーモアたっぷりの一篇です。


谷崎由依、吉田知子、藤野千夜、小池昌代

マーナの焦げ茶色の美しい肌は、この国ではずいぶん目立つ。かつて作家だった母を持つ彼女は、大学で若者たちに脳性理学を教えつつ、ほんの少しだけ“文学”を伝え続けるが……。谷崎由依「黒板」

いらない、と思った瞬間、ケンのVは身体を飛び出した。どこかでやっぱり、野良のPと交わったりするのだろうか? 吉田知子「ケンのV生活」、30年後の男女の在り方を鋭く描きます。

世の中にはたくさんの家族の形があるらしい。契約結婚、同性婚、養子……。美々加には、自慢のママがふたりいる。藤野千夜「ふたりのママ」、30年後も変わらないのは、家族の絆?

小池昌代「ブエノスアイレスの洗濯屋」は、30年後も“手作業”の仕事を続ける二人の男性の物語。ひとりはアイロンを掛け、もうひとりはおにぎりをむすぶ。ある時、ビルの屋上で出会った二人は……。


鹿島田真希、いしいしんじ、吉村萬壱、橋本 治

とある大量殺人犯が「自分の死体は腐らない」と宣言して自殺した。30年後、言葉通り不朽体となった死体について、人々は語り合う。そんな奇跡が起こせるなんて、彼は何者だったんだろう――? 鹿島田真希「死体と乙女」、少女と少年が辿りついた真相は?

なかなかひとが死なない世界。少年は作家だった祖父が書いた本を手に、家族で海に向かう。祖父の遺した物語を読みながら……。いしいしんじ「できそこないの王国」

老人はかつて愛した若い愛人を想い出す。あの二つの那智黒。会いたい。当てもなく飛び出すと、大きな丸いものの周りで群衆が騒いでいる。どうやら“それ”は人を裁くようだ。吉村萬壱「コレガーレスギル」。不思議な言葉のその意味は?

九十八歳の“私”はとりとめもなく考える。地震、戦争、つぶやきシロー、原発、プテラノドン。自分はうっかり百まで生きるんだろうか。もういいや、眠くなったから、寝よう。橋本治「九十八歳になる私」、作家の逞しい生き様をユーモラスに描きます。 


未来をめぐる鼎談

高橋源一郎×奥泉 光×島田雅彦

30年後の世界は果たしてどうなっているのか? 鋭い論壇時評を新聞紙面に発表し続けている高橋源一郎、先日最終回を迎えた連載小説「ビビビ・ビ・バップ」で想像力を駆使し未来を描いた奥泉光、近未来の日本を舞台にした連載を開始した島田雅彦が語り合います。資本主義の行方は、コミュニティの価値は、そして文学の役割は――!?


〈30年後の世界――作家の想像力〉

アンソロジー

半減期を祝って  津島佑子

移動販売車  髙村 薫

列島、ノラネコ刺すノライヌ  古川日出男

現代生活手帖  津村記久子

黒板  谷崎由依

ケンのV生活  吉田知子

ふたりのママ  藤野千夜

ブエノスアイレスの洗濯屋  小池昌代

死体と乙女 鹿島田真希

できそこないの王国  いしいしんじ

コレガーレスギル  吉村萬壱

九十八歳になる私  橋本 治

鼎談

高橋源一郎×奥泉 光×島田雅彦

〈連作〉

ホサナ〔14〕  町田 康

〈連載小説〉

鳥獣戯画〔2〕  磯﨑憲一郎

コンテクスト・オブ・ザ・デッド〔2〕  羽田圭介

オライオン飛行〔13〕  髙樹のぶ子

〈連作評論〉

美と倫理とのはざまで カントの世界像をめぐって〔5〕 熊野純彦

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔25〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔80〕  大澤真幸

〈連載〉

モンテーニュの書斎〔6〕  保苅瑞穂

現代短歌ノート〔71〕  穂村 弘

〈随筆〉

墓碑銘をめぐるぼくの悲鳴  土屋政雄

身体と思想  松原隆一郎

幽霊になる  岸 政彦

モスクワの男根  水原 涼

〈私のベスト3〉

お守り「のようなもの」  春日武彦

そんな感じってどんな感じ  早川いくを

未完のチャップリン  大野裕之

〈書評〉

人でなしの魅惑と恐怖(『異類婚姻譚』本谷有希子)中条省平

長嶋有のようだ(『愛のようだ』長嶋 有)福永 信

躍動する学校あるある(『学校の近くの家』青木淳悟)矢野利裕

巨木とキノコを隔てる分断線(『チェーホフ 七分の絶望と三分の希望』沼野充義)山城むつみ

〈創作合評〉

阿部公彦+安藤礼二+江南亜美子

「半地下」宮内悠介(文學界2016年2月号)

「ゼンマイ」戌井昭人(すばる2016年2月号)

「草の婚約」片瀬チヲル(群像2016年2月号)