群像2014年8月号

一挙掲載230枚

多和田葉子「献灯使」

鎖国を続けるいつかの「日本」。ここでは老人は百歳を過ぎても健康で、子供たちは学校まで歩く体力もない。新しい世代に託された希望とは果たして? 多和田葉子「献灯使」、〈大きな過ちの未来〉を物語る問題作です。


独創的な”寅さん小説”

滝口悠生「愛と人生」

ヤクザだった父親を失くした少年=「私」は、寅という男と母親探しの旅に出た――。子役だった青年が振り返る”あの”映画。滝口悠生「愛と人生」山田洋次監督も共感した、斬新で独創的な”寅さん小説”です。


連作短篇第3回

川上弘美「緑の庭」

十八になるまで女のひとしか見たことのなかったリエンのところに、その男のひとはやってきた。この世界では、無数の女に対して男はたった十数人だ――。川上弘美の連作「緑の庭」、ふしぎで切ない初恋の物語です。


評論 阿部公彦「蓮實重彦を十分に欲するということ」

「蓮實重彦を十分に欲するということ――『「ボヴァリー夫人」論』の話者らしさをめぐって」では、ついに刊行された蓮實重彦『「ボヴァリー夫人」論』を、阿部公彦が読み解きます。重厚長大な論考のマッピングから、蓮實重彦独特の語り口まで、さまざまな視点から『「ボヴァリー夫人」論』の読み方のコツを探る評論です。


特集「個人的な詩集」 大江健三郎、片岡義男、高橋源一郎、日和聡子

四人の編者がそれぞれ独自のテーマに沿って、数篇の詩を選び作り上げるアンソロジー「個人的な詩集」。恒例の好評企画第三弾が登場です。大江健三郎「英詩翻訳の声調」、片岡義男「国家・唱歌教育」、高橋源一郎「ぼくの大好きな詩たちのこと」日和聡子「磁場のほとり」。編者の思いあふれる解説とともに、古今東西の名詩をお楽しみください。


もくじ

〈一挙掲載230枚〉

献灯使  多和田葉子

〈中篇170枚〉

愛と人生  滝口悠生

〈連作〉〔3〕

緑の庭  川上弘美

〈評論〉

蓮實重彦を十分に欲するということ――『「ボヴァリー夫人」論』の話者らしさをめぐって  阿部公彦

〈特集 個人的な詩集〉

英詩翻訳の声調  大江健三郎

国家・唱歌教育  片岡義男

ぼくの大好きな詩たちのこと  高橋源一郎

磁場のほとり  日和聡子

〈連載小説〉

パノララ 最終回  柴崎友香

尻尾と心臓〔2〕  伊井直行

虚人の星〔2〕  島田雅彦

ビビビ・ビ・バップ〔8〕  奥泉 光

時穴みみか〔11〕  藤野千夜

〈連載評論〉

皇后孝 最終回  原 武史

チェ-ホフとロシアの世紀末〔4〕  沼野充義

鬼子の歌 近現代日本音楽名作手帖〔8〕  片山杜秀

〈世界史〉の哲学〔64〕  大澤真幸

〈連載〉

現代短歌ノート〔53〕  穂村 弘

映画時評〔68〕  蓮實重彦

〈随筆〉

和風日本料理北米本店  円城 塔

悪文          立岩真也

本とのこと       名久井直子

出雲幻想        遠山右近

〈私のベスト3〉

抽象表現主義を超えるものなし   千石英世

おっさんサウナ          戌井昭人

心に残る大衆そば屋を追いかけて  坂崎仁紀

〈書評〉

宝物のありか(『たまもの』小池昌代)野崎 歓

東京ゲロンチョン パケット化する知、蝟集する私(『東京自叙伝』奥泉 光)鴻巣友季子

渦巻き、絡み合う人生(『風』青山七恵)藤井 光

引用たちの創発性(『鼻に挟み撃ち 他三編』いとうせいこう)大澤 聡

思い出すこと、語ること(『ムラカミのホームラン』川崎 徹)江南亜美子

〈創作合評〉

吉増剛造+中条省平+長野まゆみ

「ルンタ」山下澄人(群像2014年7月号)

「春の坂道」古井由吉(群像2014年7月号)

「ゆくゆくは幸せに暮らす」片岡義男(文學界2014年7月号)